弟の呼吸器のチューブが外れて、鼻に当てるマスクで呼吸するようになっていた。初めての鳴き声と、初めての抱っこがあった九日間の、その続きの数日間の話だ。
「一応順調」に、何かが引っかかった
妻が面会で聞いてきた話によると、弟の経過は一応順調とのことだった。呼吸が不安定になることはあるが、挿管に戻すほど悪いわけではない。説明に矛盾はなかったが、何かが引っかかった。兄のときと比べると、そこまで状態がいいわけでもなさそうに見えていた。ただの思い過ごしであってくれればいいが。当時の日記に、そう書いていた。
翌日も妻が面会に行った。相変わらず特に変わりなし、という話を聞いて一安心した。ただ、あとになって妻が気になることを言い出した。主治医の先生が電話で話しているのが少し聞こえた。はっきり何を話していたかは分からない。でも、自分の子どもの名前を聞いた気がする。そして何かに対して「要精密」という言葉が聞こえた、と言う。聞けば聞くほど、不安になる材料しかなかった。次に先生と話す機会があれば、聞いてみようと思っていた。
「今、心配事は特にない」と言われた日
その機会は、翌日の祝日に来た。妻と早起きして、運動がてら軽く山に登ってから面会に行った。しばらくすると、主治医の先生が話をしに来てくれた。
どの先生も同じことを言うが、最初の一ヶ月に比べてだいぶ安定してきていて、これからは体重を増やすことに専念できる、という話だった。ここまで早く呼吸器のチューブを外せるとは、こちらも思っていなかった。
質問はあるかと促され、今、二人にとって心配事はあるかと尋ねると、特にない、という答えが返ってきた。
それは良かった。ただ、同じ日に聞いた話もある。目は、酸素をたくさん使っているので、治療が必要になるリスクが高い。それと鼠径ヘルニア。こちらは二人とも退院後に手術が必要になることが確定していて、ただし日帰りでできるレベルの処置なので大丈夫、という説明だった。どちらも、先々の話として聞いた。
まだ小さいのに、と思うと、なんともやりきれなかった。安定していて心配するようなことはないと言われても、親にしてみれば、目のことも、お腹のことも、呼吸のことも心配事だった。なるべく何もしなくて済むようになってほしい。そう思いながら帰った。
夕方の電話、7分の心臓マッサージ
翌日は平日だった。妻はその日も面会に行き、一時間ほど二人の様子を見て、家に帰っていた。そのあとの夕方、病院から妻に電話があった。
私は仕事中で、妻からのLINEでそれを知った。何かあったときにすぐ気づけるように、仕事中でもLINEは見られるようにしていて、会社にも了承をもらっていた。その備えが、この日は本番になった。
弟が、鼠径ヘルニアが原因で血便が出た。点滴を試みたところ呼吸が不安定になり、鼻のマスクをやめて、以前のように管を挿管することになった。処置は技士が4人がかりでもかなり手こずり、その間に弟は呼吸困難に陥った。7分くらい、心臓マッサージと手動による呼吸のサポートが行われた。
そのせいで、脳にダメージが発生した可能性がある。程度は分からない。何かしらの障害が出た場合も、今回の件が原因なのか、前に起きた脳内の出血が原因なのか、因果関係は特定できないと言われた。
電話は、事後の報告だった。処置が終わって、落ち着いたあとの連絡だった。
また振り出し
仕事が終わると病院に寄ってから帰る。それが毎日の流れになっていた。その日も、帰りに寄った。保育器の周りは光を遮るように覆いで囲われていて、弟の姿を直接見ることはできなかった。
前の日、問題はもうないと言われて喜んでいたのに、一日でここまで変わってしまった。
また振り出しだ。また眠れない日が戻ってきてしまった。当時の日記は、そう終わっている。